今回は、決算書における「税効果会計」についての解説をまとめました。
税効果会計
税効果会計とは
税効果会計とは、会計上と税法上の一時的な差異をtようせいし、法人税等の金額と税引前当期純利益を対応させるための会計処理のことです。
収益・費用は会計基準に従って計算しますが、法人税などの金額は税法に基づいて計算するため、会計上、法人税等の金額が損益計算書の損益に対応しません。
その問題を解決するために税効果会計が適用されます。
税法における利益
会計上の利益は、収益から費用を引いて求めたのに対し、税法上の課税所得は、益金から損金を引いて求めます。
課税所得(税法上の利益)=益金ー損金
法人税等=課税所得(税法上の利益)ー税率
会計上の収益・費用と法人税法上の益金・損金の範囲はほぼ同じですが、それぞれの計算目的が違うため部分的に違いが生じます。
そのため、この違いを税効果会計で調整することによって、法人税等の金額と税引前当期純利益を対応させます。
会計上は、企業の実際の適切な開示を目的としているのに対して、税法上は課税の公平性を目的にしています。
当期の収益が10000円、当期の費用が7000円、当期の費用のうち税法上損金として認められない減価償却費が100円、実効税率が40%だとすると、会計上の利益と税法上の利益は下のようになります。
会計上の収益(10000円)ー会計上の費用(7000円)=会計上の利益(税引前当期純利益)(3000円)
税法上の収益(10000円)ー税法上の損金(7000円ー100円=6900円)=税法上の利益(課税所得)3700円
このように、会計上の利益が3000円、税法上の利益が3100円となり、一致しません。
この時の損益計算書は下のようになります。
会計上の利益(税引前当期純利益)は3000円のため、これに対応するあるべき法人税等は3000円かける40%=12000円です。
しかし、法人税は課税所に対して課税されるため、実際の法人税等は3100円×40%=1240円となります。
この差異を調整する一連の処理を税効果会計と言います。
税効果会計の対象となる差異
関連記事→決算書における【 法人税等の計上について 】分かりやすく解説
税効果会計の対象となる差異
会計と税法の違いから生じる差異には、一時差異と永久差異があります。
このうち、税効果会計の対象となるのは一時差異のみです。
一時差異 | 会計上の「収益・費用」と税法上の「益金・損金」との認識時点の相違などによって生じた企業会計上の「資産・負債」の金額と法人税法上の「資産・負債」の金額との差額です。 この差異が生じている「資産・負債」が将来、売却決済されることなどにより解消します。 |
永久差異 (税効果会計の対象外) | 会計上は「収益・費用」ですが、税法上は「益金・損金」として扱われないことから生じる差異であり、永久に解消しないものです。 |
例えば、取得原価2000円の機械について、税法上の耐用年数は5年で、会計上は耐用年数4円で減価償却を行なったとします。
この差異、会計上の減価償却費が500円(=2000円÷4)であるのに対し、
税法上尊kん参入できるのは400円(=3000円÷5年)になります。
しかし、全期間を通じた減価償却の総額は同じ2000円です。
つまり、一時差異は一旦生じても解消されます。
一期間ごとの減価償却費は会計上と税法上で異なりますが、全期間を通じた総額は同じです。
一時差異と永久差異の具体例
一時差異と永久差異は、具体的には次のようなものがあります。
一時差異 | 永久差異 |
・棚卸資産の評価損 ・貸倒引当金の繰入限度超過額 ・減価償却費の償却限度超過額 ・積立金方式による圧縮記録の損金算入額 ・その他有価証券の評価差額 ・繰延ヘッジ損益 | ・受取配当金の益金不算入額 ・交際費の損金不算入額 ・寄付金の損金不算入額 |
損金(益金)不算入と損金(益金)算入
損金不算入とは、会計上は費用計上しますが、税法上は損金に算入しないことです。
反対に、損金算入とは、会計上は費用計上しませんが、税法上は損金に算入することです。
また、益金不算入とは、会計上は収益計上しますが、税法上は益金に算入しないことです。
反対に、益金不算入とは、会計上は収益計上しませんが、税法上は益金に参入することです。
法人税等の調整
会計処理
法人税などの納付額は税務上の処理で既に確定しているため、法人税等を直接加減することはできません。
そこで、法人税等に減産する場合には、法人税等調整額という勘定科目を用いて間接的に減算し、相手科目は税金の前払を意味する繰延税金資産として処理します。
法人税等に加算する場合には、法人税等調整額が借方にきて、相手科目は繰延税金負債となります。
損益計算書における「法人税等調整額」の表示
損益計算書上、法人税等のすぐ下に法人税等調整額を記載します。
税効果会計の適用方法
税効果会計の方法には資産負債法と繰延法がありますが、制度上は資産負債法を採用しています。
制度上は資産負債法を採用していますが、実際に仕訳を考える際には「収益・費用」と「益金・損金」の差額に着目する方法(繰延法)の方が理解しやすいです。
資産負債法・繰延法
資産負債法 | 繰延法 | |
特徴 | 会計と税法の差異を、貸借対照表の視点から認識しようとする方法 | 会計と税法の差異を、損益計算書の視点から認識しようとする方法 |
一時差異の定義 | 貸借対照表に計上されている資産・負債の額と法人税法上の資産・負債の額との差額 | 損益計算書に計上されている収益・費用の額と法人税法上の益金・損金の額との差額 |
税率 | 差異が解消する会計期間の税率 | 差異が発生する会計期間の税率 |
税率が変更された場合 | 過年度に計上された「繰延税金資産」「繰延税金負債」を新たな税率で再計算する | 過年度に計算された「繰延税金資産」「繰延税金負債」の修正は行わず、一時差異の解消年度まで繰り越す |
棚卸資産の評価損①
損金不算入・税効果会計
棚卸資産の評価損は、税法上、損金に算入することが認められない場合があります。(損金不算入)
この時、会計上の費用より税法上の損金の方が少なくなるため、当期の納付額(税法上の金額)の方が会計上の法人税等より多くなります。
したがって、会計上の法人税等に合わせるために、法人税等を減額調整します。
例えば、商品評価損が100円だった時、会計上の費用は100円、税法上の損金は0円となります。
その差額分(100円ー0円=100円)だけ、税法上の利益(課税所得)が多くなるため調整します。
差異が解消した時
一時差異が解消したときは、一時差異が発生した時の反対仕訳をして繰延税金資産を取り消します。
将来減算一時差異と将来加算一時差異
一時差異が解消する時にその期の課税所得を減少させる効果のあるものを将来減産一時差異と言います。
反対に、一時差異が解消するときにその期の課税所得を増加させる効果があるものを将来加算一時差異と言います。
【将来減算一時差異の処理の流れ】
第1期:商品評価損が損金不算入(将来減算一時差異)
→課税所得(税法上の利益)が多く計上された
第2期:当該商品が販売され、差異が解消した
→税法上、売上原価が多く計上され、課税所得(税法上の利益)が減少した
また、将来減算一時差異と将来加算一時差異をまとめると、次のようになります。
B/S計上項目 | 左の科目の意味 | |
将来減算一時差異 | 繰延税金資産 | 法人税等の前払い |
将来加算一時差異 | 繰延税金負債 | 法人税等の未払い |
将来減算一時差異 | 将来加算一時差異 |
・棚卸資産の評価損の損金不算入額 ・貸倒引当金の繰入限度超過額 ・減価償却費の償却限度超過額 ・その他有価証券の評価損の損金不算入額 など | ・積立金方式による圧縮記録長の損金算入額 など |
将来減算一時差異(評価差損)または将来加算一時差異(評価差益) |
・その他有価証券の評価差額 ・繰延ヘッジ損益 |
棚卸資産の評価損②
税効果か会計の会計処理
法人税などは期末に計上するため、税効果会計における法人税等の調整も期末に行います。
したがって、前期に発生した差異の解消と当期に発生した差異にかかる法人税等の調整は期末に一括して行います。
貸倒引当金の繰入限度超過額
貸倒引当金の繰入のうち、税法上の繰入限度学を超える金額については、損金に参入するkとおができません。
会計処理法は棚卸資産と同様です。
減価償却費の償却限度超過額
減価償却費のうち、税法上の減価償却費(限度額)を超える金額については、損金に算入することはできません。
その他有価証券の評価差額
その他有価証券は、会計上は期末に時価評価しますが、税情報は評価差額の計上は認められていません。
そこで、税効果会計を適用することになります。
全部純資産直入法の場合
全部純資産直入法の場合、期末の時価差額であるその他有価証券評価差額金は損益計算書を経由せず、直接純資産の部に計上されます。
従って、税効果会計でも法人税等調整額で調整せず、その他有価証券評価差額金を使って調整します。
部分純資産直入法の場合
部分純資産直入法の場合、評価差益の時は全部純資産直入法の会計処理と変わりません。
一方、評価差損の場合は投資有価証券評価損として損益計算書に計上されるため、その調整は同じ損益計算書項目である法人税等調整額で行います。
翌期首の仕訳
その他有価証券の処理は洗替法によるため、翌期首には評価差額を振り戻します。
この時、税効果仕訳の処理については次の違いがあります。
【その他有価証券の期首洗替時における税効果仕訳】
全部純資産直入法:税効果の仕訳も一緒に振り戻す
部分純資産直入法(評価差損の場合):税効果仕訳は振り戻さない(他の税効果仕訳と同様、期末に処理する)
積立方式による圧縮記録
圧縮記録の処理には次の2つがあります。
【圧縮記録の会計処理】
・直接減額方式:固定資産の取得原価を直接減額する方法
・積立金方式:固定資産の取得原価を減額せず、圧縮積立金を計上する方法
このうち積立金方式では、会計上は圧縮損を計上せず積立金として処理しましたが、税法上は圧縮損の計上が認められています。
従って、会計上の費用の額と税法上の損金の額に差異が発生するため、税効果会計の適用対象となります。
貸借対照表上の表示
貸借対照表上の表示区分
繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示します。
・繰延税金資産→投資その他の資産
・繰延税金負債→固定負債
商品は流動資産ですが、商品評価損の損金不算入により生じた繰延税金資産は投資その他の資産に計上します。
差異が生じた資産・負債の表示区分と異なる場合があるため、注意しましょう。
相殺表示
貸借対照表に表示される繰延税金資産と繰延税金負債は、相殺して純額で表示します。
相殺
繰延税金資産 ⇄ 繰延税金負債
更に、異なる納税主体(親会社と子会社など)の繰延税金資産と繰延税金負債は、相殺せずに表示します。
まとめ
株式投資や経営においても、決算の読み解きは必須になります。
そのため簿記の知識も活かしてより決算書を深く理解しましょう。
最近のコメント