今回は、「曖昧性による人間の行動の変化」について解説します。
- ・成功の確率が非常に低い時は曖昧性が好まれる
- ・利得状況の時に平均確率が0.5以上となる確率場面では、曖昧性忌避がみられる
- ・確率が曖昧だったり、損失の大きさがはっきりしなかったりするような時に保険料が大きく課され、曖昧性忌避がみられる
- ・金銭・努力・時間などの投資が一度なされると、それ以上の投資利益を産まないことが分かっていても、その試みが続けられるというサンクスコスト効果が発動する
- ・曖昧な情報はサンクスコストを削減させる
- ・1次確率が0か1かのどちらかが極端に高いような場面は嫌われる
- ・1次確率分布が全く分からない無知型が強く懸念される
- ・1次確率が凸分布の場合は好まれる
- ・非対称的な2次確率では、(選択場面が利得であるか損失であるかに関わらず)負の歪度の時に強い曖昧性忌避、対照的な時はやや曖昧性忌避、正の歪度の時には曖昧性選好がみられる
- ・情報がなかったり無知であることを示すような文脈よりも好まれる傾向がある
- ・曖昧性は有用感を感じる可能性の要因の1つに過ぎず、意思決定者の有用感の方が曖昧性よりも選好において重要
- ・馴染みの深いものに有用感が高いというホームバイアスが影響していることがある
曖昧性について
2色問題や3色問題では、曖昧な選択場面は避けられるが、むしろ好まれる場合があることが、エルスバーグでは示唆されています。
曖昧性選好
曖昧性選好に関しては、次の例題が研究結果として出ています。
壺1には、1000個の玉が入っており、それぞれ1〜1000まで1つずつ数字が書いてあります。
もう1つの壺2にもやはり1000個の玉が入っており、1〜1000までの数字が書かれているか分かりません。
2つの壺のどちらかから、ある数字が書かれた玉を取り出した時に賞金がもらえるとしたら、壺1と壺2のどちらから引きたいですか?
壺1でも壺2でも、ある数字を取り出す確率は0.001ですが、壺1では確率が明確で、壺2は曖昧です。
しかしこの場合は、壺2を選ぶものの方が多いと考えられています。
すなわち、成功の確率が非常に低い時は、曖昧性はむしろ好まれるということです。
その後の研究から、利得状況の時に平均確率が0.5以上となる確率場面では曖昧性忌避が見られます。
しかし確率が低くなると好まれるようになる頃、損失状態では逆に、高確率場面では曖昧性先行が見られ、低確率で忌避される傾向があることが分かっています。
曖昧性忌避差
より現実的な場面を用いた研究として、クンルーサーらは、地震などの災害の可能性や被害について述べられたシナリオを作成し、保険業者に保険料を設定してもらいました。
この場合でも、確率が曖昧だったり損失の大きさがはっきりしなかったりするような時に保険料が大きく課され、曖昧性忌避の傾向が見られました。
経済的な決定場面において重要な、コストやベネフィットに関する情報の曖昧性について言及した研究もあります。
サンクスコストと曖昧性
ある会社で新築を開発しており、これまでに投じた費用は50万から150万フランの間でした。
この薬は完成までに更に100万フランかかります。
しかし他社が同種の、より優れた商品を発売することが分かりました。
あなたは、開発を継続するべきでしょうか?中止するべきでしょうか?
金銭・努力・時間などの投資が一度なされると、それ以上の投資利益を生まないことがわかっていても、その試みが続けられるというサンクスコスト効果が知られています。
この実験では、すでに投じた費用について一切触れられていない統制群、50フランかかった低さんくすコスト群、150万フランかかった高サンクスコスト群、そして上の囲みにあるような50〜150万フランかかった曖昧サンクスコスト群が設けられました。
結果は、低群と高群では、約7割が開発の継続を選択しました。
曖昧郡では3割程度あり、統制群と差がありませんでした。
つまり、曖昧な情報はサンクスコストを削減させたということです。
別の実験では、将来期待できるベネフィット情報の曖昧性が扱われました。
既に2軒のレストランを所有している人が、3軒目を開店するかどうかを検討しているとします。
新店舗への関心の程度を調べる2つの調査を行ったという設定で判断を求めました。
結果は下記です。
新店舗への関心の多少に関わらず、2つの調査結果の数値が同一であったリスク群の方が、数値が異なる曖昧群や情報のない統制軍よりも開店すると答えた人が多かったという結果になりました。
また実験1と同様に、曖昧群と統制群との間には差がありませんでした。
このように、確率の曖昧性と同様にコストや結果の曖昧性も避けられ、情報がない場合と同じような選択がなされることが示されています。
2次確率分布による曖昧性の把握と選好
曖昧性回避は頑健な現象であると言います。
では、そもそも曖昧性とは何であり、どのようにして捉えられたり、表現されたりするのでしょうか?
曖昧性の定義と表現
エルスバーグは曖昧性を「情報量・タイプ・信頼性・一致度に依存する性質であり、相対的な可能性の推定における個人の確信度に影響を与える」と定義しています。
※エルスバーグとは→【 エルスバーグのパラドクスとは 】投資に応用すると/分かりやすく解説
単なる刺激の性質だけでなく、それに対する人の認知までも含めています。
その他に、「曖昧性とは確率に関する不確実性であり、関連していたり、知り得る情報が賭けていたりすることから生じる」という定義があります。
つまり、曖昧性とは、主として情報の欠如や矛盾を指しています。
実験研究において曖昧性は、40〜60%といった確率の範囲で表されることが多いです。
また確率値に何らかの言語を付与することで曖昧性が表されることもあります。
例えば、1つの数値に定まった明確な確率に対して、約50%など、広く用いられてきた成功率50%の治療法に対して、「医師が成功率50%と推定している新しい治療法」といった表現によって、1つに決まっているわけではなかったりします。
つまり、確率値自体の信頼度が十分でなかったりするということです。
このように曖昧性は様々な形で表されていますが、その中でも2次確率分布によって曖昧性を捉えようとする試みが研究者には人気があります。
2次確率分布での把握
アイホーンとホーガスは、2色問題の2つの壺について、「壺1の最も妥当な確率の推定値は0.5だが、推測の革新度が低い。一方、壺2は不確実性に関して(少なくとも)確実である」と述べています。
つまり曖昧性とは、不確実性に対する不確実性、あるいは確率に対する確率であり、2次確率分布で把握できるとしたのです。
そして彼らは、事象の生起確率の分布(1次確率分布)の多少を2次確率分布で示して、不確実性を無知性・曖昧性・リスク性の3種類に分類しました。
具体的には、無知性にはあらゆる1次確率が存在し得ますが、リスク性では1つに定められます。
そして曖昧性はこの2つの中間状態です。
2色問題における色玉の割合が分からない壺1は、確率に関するいかなる情報もないことから、ここでも分類に従えば無知性に相当することになります。
このことは、テニスの試合の例を考えると分かりやすいです。
まず試合1は、どちらかの選手でも勝率0.5であると推定するだけの十分な情報があって、1次確率分布が1つに確定できるためリスク性場面です。
試合2は、試合結果を予測するための情報が全く分からないことから、無知性場面です。
試合3は、分布に関する情報がある程度分かっているため、曖昧性場面ということになります。
他の実験でも、曖昧性場面は一概に避けられるとは限らず、2次確率分布の形状によっては、リスク性場面と同等であったり、好まれたりすることもありました。
また、その他の実験では、1次確率が0か1かのどちらかが極端に高いような場面は嫌われました。
ただし、その中でも凸型の分布は比較的好まれました。
リスクが他の選択部面への選好は中程度であり、2次確率分布が全く分からない無知型が強く懸念されていました。
無知性は一様分布上の1次確率分布で表せる可能性があると述べました。
しかし、実際に人々の選好を求めると、分布の形状が全く分からないものは避けられました。
2次確率分布と経済実験
2次確率を考慮した経済実験として、カメレールとクンルーサーは、損失の可能性がある実験的な市場を設け、参加者に保険の売買を求めました。
保険売買の実験
実験参加者は取引期間ごとに一定の金額を所有し、低確率(0.01〜0.5)ですが、大きな損失をもたらす可能性がある状況を示すチケットを渡されました。
そして金銭を支払ってこのチケットを別の実験協力者に渡し、くじを引いた結果からその損失が発生するかどうかを決めます。
すなわち参加者は、保険を購入することで損失を避けることができるのです。
保険の取引は、複数の売り手と買い手が売値・買値を随時入札するというダブル・オーラル・オークションで行われました。
この実験では、2次確率分布で表される曖昧性が組み込まれた取引状況が設けられています。
例えば損失の平均発生確率が0.2の時には、0、0.1、0.2、0.3、0.4のいずれかが等しい確率で出現することになっていました。
その方向は一定ではなく、価格が上がったり下がったりしました。
また、全体的に見ると曖昧性の影響は非常に小さかったという結果が出ました。
他の地域でも、分布数の多い2次確率分布を有する曖昧性場面が好まれ、少ない曖昧性場面が避けられるという結果で一致しました。
すると売買価格は曖昧性の影響を受けることがありました。
また、非対称的な2次確率では、選択場面が利得であるか損失であるかに関わらず、負の歪度の時に強い曖昧性忌避が、対照的な時はやや曖昧性忌避が、正の歪度の時には曖昧性選好が見られました。
このような結果が得られたのは、平均から大きく離れた確率にウェイトが置かれたためであると説明されています。
すなわち、僅かに勝率となる可能性がある場合は避けられます。
しかし、他と比べて非常に高い勝率を得られるかもしれない場合は好まれます。
1次確率分布が明確に得られることは必ずしも多くないかもしれません。
しかし、以上の研究は分布の形状が選好に大きな影響を及ぼすことを示しています。
この研究では、2次確率分布への関心も含め、曖昧性自体が選好に影響を与えると考えていました。
しかし、ヒースとトヴェルスキーは、不確実な事象への賭けの意欲は、推定される確率の高低やその推定の正確さだけでなく、関連する文脈の知識や理解に依存するという仮説を提唱しました。
つまり、よく分かっていたり、有用感を感じたりするような文脈の方が、情報がなかったり無知であることを示すような文脈よりも好まれる傾向があるというものです。
このような立場からすると、曖昧性は有用感を感ずる可能性のある要因の1つに過ぎず、意思決定者の有用感の方が曖昧性よりも選好において重要ということになります。
有能感仮説
ヒースとヒースとトヴェルスキーによると、有能感は一般的な知識・選択問題への親密性・接触経験などがあることによって高められる一方、利用できる関連情報があることで減少します。
2色問題の曖昧な壺のあたりの割合は、原理的には知りうる参加者がには分からないため、有能感が低くなって避けられます。
また年金運用などの際に、必ずしも有用とは言えない国内資産に外国資産よりも多く配分するというホームバイアスという現象が見られますが、これも馴染み深い国内資産への有能感が高いために生じるとされています。
ポイントまとめ・投資に応用すると
上記の重点を箇条書きにまとめ、投資に応用したものを次の事項にまとめました。
・成功の確率が非常に低い時は曖昧性が好まれる
これは、BCG(詳細→【 稼げるNFTゲーム全種類(21種類) 】それぞれの特徴・稼ぎ方・始め方)などで、ガチャ要素を入れて、確率の低い曖昧性を取り入れていることが分かります。
そのため、大元の確率を自覚し、期待値が高いのかどうかを見極める必要があります。
・利得状況の時に平均確率が0.5以上となる確率場面では、曖昧性忌避がみられる
確率が50%以上の時つまり確率が半々以上の時は、曖昧性が回避される傾向があるということです。
半々以上の時は、人間は曖昧性よりも確実性を選ぶ傾向があるということを覚えておきましょう。
・確率が曖昧だったり、損失の大きさがはっきりしなかったりするような時に保険料が大きく課され、曖昧性忌避がみられる
これは保険のビジネスに応用されていそうですね。
私たちは、確率が曖昧だったり、損失の大きさが明確でないときに高い保険料を払う傾向があるということです。
これは逆に、確率が決まっていたり損失の大きさが明確だったりすると、曖昧性忌避が生じなくなり、高い保険料を払わない傾向があるということです。
そのため私たちは心理的に、曖昧な時に高い保険料を支払いたくなるということをお覚えておきましょう。
・金銭・努力・時間などの投資が一度なされると、それ以上の投資利益を産まないことが分かっていても、その試みが続けられるというサンクスコスト効果が発動する
あまり期待できないものでも、その投資対象に課金したり、知る努力をしたり、時間をかけたりすると、期待できなくても投資し続けやすいということです。
サンクスコスト効果は投資的には恐ろしいですね。
そのため、すでに投資していて、情報収集にも時間をかけていて、時間をかけている場合は心理的に投資し続けやすいため、その心理を自覚し、冷静に見極める必要があるということです。
サンクスコスト効果が自身にかかっていないか?本当に期待値が高いのか?を随時精査する必要があります。
・曖昧な情報はサンクスコストを削減させる
確率が定まっていなかったり(投資の場合はいつでもそうですが、より曖昧性が高いとき)は、サンクスコストを削減することができるということです。
逆にいうと人間は、確率が高い時や曖昧性が低い時によりサンクス効果がかかりやすいということなので注意しましょう。
・1次確率が0か1かのどちらかが極端に高いような場面は嫌われる
人間は、1次確率が0か1に近い時は回避するする傾向があるということです。
逆に、曖昧にしておくと好まれて選択されるということですね。
これもBCGに応用できるでしょう。
・1次確率分布が全く分からない無知型が強く懸念される
1次確率の分布が曖昧にされているものは、不確実要素が多過ぎて懸念されるということですね。
これは無知型の特徴です。
逆に言うと、1次確率分布が分かっているものは好まれると言うことです。
・1次確率が凸分布の場合は好まれる
これは先ほどの項目に続いていますが、凸分布だと好まれるというのは不思議ですね。
しかしデータとして出ています。
人間は、フィボナッチ(詳細→【 フィボナッチリトレースメントント(図で解説)】投資におけるテクニカル分析で必須)を無意識的に好む傾向があるため、凸分布もこれと同じ作用の可能性がありますね。
人間の心理は、しれば知るほど面白いですね。
知っているのと知らないのでは差が出るため、知識として覚えておきましょう。
・非対称的な2次確率では、(選択場面が利得であるか損失であるかに関わらず)負の歪度の時に強い曖昧性忌避、対照的な時はやや曖昧性忌避、正の歪度の時には曖昧性選好がみられる
得か損か分からない時は、歪度によって曖昧性に対する考え方が変わるということです。
そのため歪度によって曖昧性による行動に影響が出るということを知っておきましょう。
これは非対称的な2次確率にのみこのような結果が出ているため、投資には当てはまりにくいですが、該当する場合はこの傾向を利用しましょう。
・情報がなかったり無知であることを示すような文脈よりも好まれる傾向がある
人間は、情報のない無知型を嫌う傾向があるということですね。
そのため情報を多く与えると好んで選択してもらえる確率が上がるということです。
仮想通貨などにおいては、ホワイトペーパーなどっで処す愛に情報を公開した方が、好んで投資してもらえる確率が高くなるということですね。
・曖昧性は有用感を感じる可能性の要因の1つに過ぎず、意思決定者の有用感の方が曖昧性よりも選好において重要
曖昧性より、意思決定者の方が重要だということです。
つまりこれは、曖昧性による傾向もデータがあるけど、意思決定者の方が重要だということです。
これを投資に応用すると、すべての人間に心理的に曖昧性による影響があるけど、投資する本人(意思決定者)の保有する知識や情報や信念が最も重要であるということです。
例えばウォーレンバフェットさんだったとしたら、曖昧性による影響があったとしても、騙されずに大元の確率に沿って考えることができるということでしょう。
つまり我々投資家は、バイアス(詳細→投資における【 確証バイアスとは 】対処法まで分かりやすく解説)がかかっていたり心理的影響があったとしても、大元の本質を見抜くことが大切ということです。
そのため今後も、人間の相場心理も身につけて、本質を見抜ける投資家になっていきましょう。
・馴染みの深いものに有用感が高いというホームバイアスが影響していることがある
ホームバイアスと言って、馴染みの深いものを好んで選択する傾向があるということです。
我々は投資でもまさにそうですね。
日本に住んでいたら日本株に投資する傾向があるし、米国に住んでいたら米国株に投資する傾向があります。
これは私自身、この心理を知ってからハッとしました。
日本人が日本株に投資しているのも、実はホームバイアスによるものなのか、と。
そう考えると、仮想通貨が普及してきており、我々より若い世代はより仮想通貨が身近にあるため、生産年齢人口の年代の入れ替わりの時点で時代が大きく変わるのもこれによるものなのだなあと思いました。
まだアーリー段階のその投資対象が普及するのは、生産年齢人口の層が、その投資対象に幼き頃から馴染みがある層になった時に爆発的に伸びるのでしょうね。
人間の心理学は非常に趣深いです。
今後も楽しく学んでいき、投資に活かしましょう。
最近のコメント