今回は、決算書における「外貨換算会計」についての解説をまとめました。
外貨換算会計とは
外貨換算会計
日本企業が外国で取引を行う場合、日本円以外の通貨を用いることになりますが、財務諸表は円で表示しなければならないため、一定のルールにしたがって取引を円に換算しなければなりません。
ここでは、このような外貨による取引を円に換算する方法について説明します。
外国為替相場
外国為替相場とは、あるくにの通貨と別の国の通貨の間の交換比率のことです。
他にも、為替相場、為替レートとも言います。
外貨建て取引は原則として取引発生時の為替相場で換算します。
外貨換算会計では、取引発生時・決算時・期中平均といったいくつかの為替相場を使います。
輸入時・輸出時の会計処理
基本的な会計処理
商品を輸入・輸出する場合、その受払額は取引発生時の為替相場(HR)で換算します。
前払金・前受金の会計処理
前払金を支払った場合や前受金を受け取った場合、取引じの為替相場(HR)で換算します。
輸入時の会計処理(前払金のある場合)
商品を輸入する前にすでに前払金を支払っている場合、外貨建ての仕入金額から、まず前払金(支払時の為替相場で換算したもの)を減少させます。
そして、外貨建ての仕入れ金額のうち残った部分について取引じの為替相場(HR)で換算します。
前払金がある場合、仕入れは直接計算せずに前払金と買い掛け金の合計で求めます。
これは支払い方法が手形や買掛金になっても同様です。
輸出時の会計処理(前受金のある場合)
商品を輸出する前に既に前受金を受け取っている場合、外国建の売上金額のうち、まず前受金(受け取り時の為替相場で換算した物)を減少させます。
そして、外貨建ての売上金額のうち残った部分について取引じの為替相場(HR)で換算します。
前受金がある場合、売上は直接計算せずに前受金と売掛金の合計で求めます。
決済時の会計処理
商品を掛けで売買している場合、対応する買掛金や売掛金は仕入れ時・売上時の為替相場で換算しています。
ここで、仕入時・売上時と決済時では為替相場が異なる場合、その換算差額を為替差損(営業外費用)または為替差益(営業外収益)として処理します。
更に、取引じと決済時の間に決算がある場合は、決算時の為替レートで財務諸表を作成します。
したがって、この場合は、決算時の為替レートと決済時の為替レートを比較して為替差損えきを計算することに注意しましょう。
決算時の換算
決算と換算
為替相場は日々変化しているため、一度日本円に換算した資産・負債であっても、そのまま換算替えを行わないままでいると、その価値を適切に表さなくなってしまいます。
そこで、決算時には資産・負債のうち、貨幣項目に分類されるものを決算時の為替相場(CR)で換算します。
換算による差額は、為替差損益で処理します。
【貨幣項目と非貨幣項目】
項目 | 分類 | 内容 | 換算 |
貨幣項目 | 資産 | ・外国通貨 ・外貨預金 ・受取手形 ・売掛金 ・未収入金 ・貸付金 ・未収収益 など | CR |
貨幣項目 | 負債 | ・未払手形 ・買掛金 ・未払金 ・社債 ・借入金 ・未払費用 など | CR |
非貨幣項目 | 資産 | ・棚卸資産 ・前払金 ・前払費用 ・固定資産 など | HR |
非貨幣項目 | 負債 | ・前受金 ・前受収益 など | HR |
前受金・前受収益・前払金・前払費用は、既に金銭の受け取り・支払いが終わっているため、決算日以降為替が変動してもその後の決算がくに影響を与えないたね。これらの項目は換算替えを行いません。
それに対し、未収入金・未収収益・未払金・未払費用はこれから金額の受け取り・支払いが行われるため、為替の変動によって決済額が変わる可能性があります。
したがって、期末の状態を表すよう換算替えを行う必要があります。
外貨建有価証券の換算
売買目的有価証券の換算
外国の会社の株式などを売買目的で保有している場合、外貨建ての時価を決算時の為替相場(CR)で換算することで円建ての時価を求めて貸借対照表価額とします。
この場合、為替差損えきは計上せず、取得原価との差額を全て有価証券評価損益で処理します。
【売買目的有価証券の換算】
①取得原価=外貨建取得原価×HR
②貸借対照表価額=外貨建時価×CR
③換算差額=有価証券評価損益=②ー①
満期保有目的債券の換算
満期保有目的の債権は、貸付金のような通常の金銭債権と同様の性質のため、基本的には決算時に決算時の為替相場(CR)で換算替えを行います。
ただし、償却原価法を適用しない場合とする場合では、換算方法が異なります。
償却原価法を適用しない場合
償却原価法を適用しない満期保有目的債券は、外貨建の場合も取得原価で評価しますが、為替変動によって将来受け取る元本の円建額が影響を受けるため、期末に決算時の為替相場(CR)で換算替えを行い、貸借対照表に計上し、換算によって生じた差額は為替差損益として処理します。
【満期保有目的債権(償却原価法なし)の換算】
①取得価額=外貨建取得原価×HR
②貸借対照表価額=外貨建取得原価×CR
③換算差額=為替差損益②ー①
償却原価法を適用する場合
外貨建満期保有目的債券で償却原価法を適用する場合、償却原価法の利息部分については期中平均早稲相場(AR)で換算します。
そして、期末に外貨による諸客原価を決算時の為替相場(CR)で換算して貸借対照表価額とし、換算差額は為替差損益として処理します。
【満期保有目的債券(償却原価法あり)の換算】
①取得原価=外貨建取引取得原価×HR
②当期償却額=外貨建償却額×AR
③貸借対照表価額=外貨建償却原価×CR
④換算差額=為替差損益=③ー(①+②)
その他有価証券の換算
その他有価証券の処理(原則確定)
外貨建その他有価証券は、外貨による時価を決算時の為替相場(CR)で換算した価額で貸借対照表に計上します。
そして、取得原価との差額は、全部純資産直入法の場合はその他有価証券評価差額金として処理し、部分純資産直入法の場合は投資有価証券評価損、またはその他有価証券評価差額金として処理します。
更に、直を把握することが極めて困難と認められる株式の場合、外貨による取得原価を決算時の為替相場(CR)で換算します。
【その他有価証券の換算】
①取得原価=外貨建取得原価×HR
②会社区対照表価額=外貨建時価×CR
③換算差額=その他有価証券評価差額金(全部純資産直入法の場合)=②ー①
その他有価証券の処理(容認規定)
外貨建その他有価証券のうち債券については、換算差額のうち時価の変動に係る差額をその他有価証券評価差額金として処理し、残りの部分を為替差損益で処理することも認められています。
子会社・関連会社株式の換算
子会社株式・関連会社株式は、外貨建ての場合も期末に換算替えはしません。
したがって、貸借対照表では外貨建ての取得原価を取得時の為替相場(HR)で換算した価額で計上します。
有価証券の減損処理
外貨建有価証券の時価または実質価額が著しく下落し、回復の見込みがあると認められない場合、減損を行うかどうかの判断は外貨ベースの金額を基準に行います。
そして、実際に減損を行う場合、期末の時価または実質価額を決算時の為替相場(CR)で換算して貸借対照表価額とし、差額は子会社株式評価損、関連会社株式評価損などの項目で処理します。
【有価証券の減損】
・外貨建取得原価×50%>外貨建時価(または実質価額)かつ、回復の見込みがあるとは認められない
①取得原価=外貨取得原価×HR
②貸借対照表価額=外貨建時価(または実質価額)×CR
③換算差額=①ー②=〇〇評価損
為替予約
為替予約とは
外貨建てで掛け取引を行った結果、購入時から決済時までの為替相場の変動によって受払額が変わります。
この受払額の変動を回避する手段として為替予約があります。
為替予約とは、外貨建金銭債権債務について、決済を行う銀行との間であらかじめ支払う為替相場を定めておく契約のことです。
為替予約は、為替予約取引をヘッジ手段、債券債務をヘッジ対象としてヘッジ取引であると言えます。
また、為替予約の会計処理には、独立処理(原則)と振当処理(容認)があります。
為替予約では、商品の売買などの営業取引と、資金の借入れ・貸付けなどの資金取引で会計処理が異なります。
取引発生時までに為替予約を付した場合(営業取引)
営業取引で、取引発生時までに為替予約を付した場合、その取引を為替予約時の先物為替相場(予約レート)で換算します。
そして、その後の決済は予約レートで行われるため、決算時も換算替えは行いません。
為替予約は先渡取引(予約取引)の1種です。
先物・先渡取引で用いられる為替相場を「先物為替相場」と言います。
また、先物為替相場に対して、その時点の為替相場を「直物為替相場」とも言います。
取引発生までに為替予約を付した場合(資金取引)
資金取引で、取引発生時までに、借入や貸付に為替予約を行なった場合も、将来の返済時の金額は営業取引の時と同様に予約レートで固定されます。
しかし、借入時や貸付時には、現金のやりとりが行われており、この現金のやりとりは取引じのレートで計上しますが、取引時発生時(発生時レート)と返済時(予約レート)の円建額に差額が生じます。
この差額は、いったん前払費用・前受け収益として処理し、決算時に当期分と次期以降の負担部分を期間按分し、当期分を為替差損えきに振り替えます。
また、決済時には残っている前払費用・前受け収益を為替差損益に振り替えます。
取引発生後に為替予約を付した場合
取引発生後に為替予約を行なった場合、営業取引・資金取引とも同じ処理を行います。
具体的には、取引発生後に為替予約を付した場合、債券債務は予約レートで換算替えします。
この時の換算差額は、取引発生時と為替予約時の直接為替相場同士の差額(直直差額)、為替予約時の直物為替相場と先物為替相場の差額(直先取引)に分け、直接差額は為替予約をした期(当期)の損益として為替差損益で処理します。
直先差額は前払費用または前受収益として処理し、決算時に当期分と次期以降の負担分を期間按分します。
為替予約により計上された前受け収益・前払費用についても、他の資産・負債と同時に一年基準による長期・短期の分類が必要です。
決算日の翌日から決済日まで1年以上ある場合は、長期前受収益・長期前払費用として表示します。
在外支店の財務諸表項目の換算
外国に支店がある場合、本支店合併財務諸表を作成する際に、在外支店の外国通過で表示されている財務諸表項目を円換算する必要があります。
換算方法
在外支店の財務諸表の換算は、本店の外貨建項目の換算方法と整合させるために、基本的には、本店における外貨建取引と同様に換算します。
貸借対照表項目の換算
資産及び負債については、貨幣項目は決算時の為替相場(CR)で、非貨幣項目は取得時の為替相場(HR)で換算します。
ただし、外貨建の子会社株式・関連会社株式は、本店における外貨建取引と同様に取得時の為替相場(HR)で換算し、棚卸資産については、時価または実質価額が付されいる場合には、外国通過による時価を決算時の為替相場で換算します。
更に、本店勘定については、本店の支店勘定と金額を一致させる必要があるため、本店における支店勘定の金額を円換算額として用います。
そして、円環珊瑚の貸借対照表の貸借差額で当期純利益を算定します。
損益計算書項目の換算
収益及び費用を、それぞれ適用される為替相場で換算します。
ただし、収益及び費用に関しては、期中平均為替相場(AR)で換算することもできます。
本店より仕入勘定は、本店の支店へ売上勘定と金額を一致させる必要があるため、本店の支店への売上勘定の金額を円換算額として用います。
最後に、円環珊瑚の損益計算書の貸借差額により、為替差損えきを算定します。
在外支店の換算方法をまとめると、次のようになります。
【在外支店の換算方法】
貸借対照表項目
外国通貨 | 決算時の為替相場(CR) |
外貨建金銭債権債務 (外貨預金・未収収益・未払費用を含む) | 決算時の為替相場(CR) |
貸倒引当金 | 決済時の為替相場(CR) |
外貨建有価証券: ・売買目的有価証券 ・満期保有目的の債券 ・その他有価証券 | 決算時の為替相場(CR) |
外貨建有価証券: ・子会社株式 ・関連会社株式 | 取得時の為替相場(HR) |
費用性資産(非貨幣性資産): 棚卸資産のうち、 取得原価で記録されているもの | 取得時の為替相場(HR) |
費用性資産(非貨幣性資産): 棚卸資産のうち、 時価または実質時価が付されているもの | 決算時の為替相場(CR) |
費用性資産(非貨幣性資産): 有形固定資産 | 取得時の為替相場(HR) |
本店勘定 | 本店における支店勘定の金額 |
【損益計算書項目】
前受金・前受収益等の収益性夫妻の収益価額 | 負債発生時の為替相場(CR) |
取得原価で記録されている費用性資産の費用価額: 減価償却 | 資産取得時の為替相場(HR) |
取得原価で記録されている費用性資産の費用価額: その他 | 資産取得時の為替相場(HR) |
その他の収益及び費用 | 原則:計上時の為替相場(HR) 容認:期中平均為替相場(AR) |
本店より仕入勘定本店 | 本店における支店へ売上勘定の金額 |
換算差額の処理 | 換算によって生じた換算差額は、 当期の為替差損益(為替差益または為替差損) として処理する |
換算の順序
在外支店の財務諸表項目の換算は、貸借対照表→損益計算書の順序で行います。
在外子会社の財務諸表項目の換算
外国に子会社(在外子会社)がある場合、その子会社も連結の範囲に含めなければなりません。
その際、在外支店と同様に外国通過で表示されている財務諸表項目を円換算する必要があります。
換算方法
在外子会社は、在外支店とは異なり、本圀の事業体から独立した事業体としての性格を持っています。
そのため、現地通貨での表示を重視することにより決算日レート法という換算方法によって換算を行います。
損益計算書項目の換算
収益と費用、当期純利益については原則として期中平均為替相場(AR)で換算しますが、決算時の為替相場(CR)で換算することも認められています。
ただし、親会社との取引により生じた収益及び費用は、親会社が換算に用いる為替相場(HR)で換算します。
貸借対照表項目の換算
貸借対照表項目のうち、資産・負債については決算時の為替相場(CR)、純資産については株式取得時または取引発生時の為替相場(HR)で換算します。
換算の結果、貸借対照表上で生じる貸借差額は為替換算調整勘定(その他の包括利益累計額)で処理します。
在外子会社の換算方法をまとめると、次のようになります。
【在外子会社の換算方法】
貸借対照表項目
資産及び負債 | 決算時の為替相場(CR) |
純資産: 親会社による株式取得時の純資産項目 | 株式取得時の為替相場(HR) |
純資産: 親会社による株式取得後に生じた純資産項目 | 該当項目の発生時の為替相場(HR) |
貸借対照表の換算差額 | 為替換算調整勘定(その他包括利益累計額) |
損益計算書
収益及び費用の原則 | 期中平均為替相場(AR) |
収益及び費用の容認 | 決算時の為替相場(CR) |
収益及び費用の 親会社との取引によるもの | 親会社が換算に用いる為替相場(HR) |
当期純利益の原則 | 期中平均為替相場(AR) |
当期純利益の容認 | 決算時の為替相場(CR) |
損益計算書の換算差額 | 為替差損益(営業外損益) |
換算の順序
在外子会社の財務諸表項目の換算は、損益計算書→株主資本等変動計画書→貸借対照表の順序で行います。
在外子会社の換算の順序は、在外支店の換算の順序とは異なるため注意しましょう。
当期純利益は貸借差額で計算せず、ARまたはCRをかけて計算します。
また、損益計算書は、親会社との取引によるもの以外はARまたはCRによって換算します。
そのため、損益計算書から生じる為替差損益は、親会社とのCRで換算した金額との差額から生じることになります。
為替換算調整勘定の計算方法
為替換算調整勘定(その他の包括利益累計額)は、在外子会社の換算の過程で生じる差額です。
為替換算調整勘定は貸借対照表の貸借差額により求めることができます。
しかし、次の計算式を用いるとより効率的に計算することができます。
為替換算調整勘定=子会社純資産×CRー子会社純資産の円換算額
為替換算調整勘定は、外貨建ての純資産項目をCR換算した金額とHR換算した金額の差額で、純資産項目に対する為替相場の変動によって発生したものと考えられるため上kの計算方法を用いて求めることができます。
連結会計の場合と同様に、為替換算調整勘定を計算する際も、タイムテーブルを作成することで、正確かつ効率的に解くことができます。
まとめ
株式投資や経営において、決算書の理解は必須になります。
その際、簿記の知識も生かして決算書の理解を深めましょう。
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